「私は眼科医ですが薬局で人気のこのコンタクトレンズは絶対に使いません」

2026年5月13日
「私は眼科医ですが薬局で人気のこのコンタクトレンズは絶対に使いません」

朝の外来で、赤く充血した目を押さえながら来院する人がいる。箱の裏には聞いたことのあるブランド名、そして「薬局で人気」のシール。私は静かに検査をして、そっと伝える。「今日はレンズを外して休みましょう」。その瞬間の沈黙が、私にとっていちばん重い

手軽さは、目にとって手軽ではない

店頭で「すぐ買える」「安い」「カラバリ豊富」。この三拍子が魅力なのは理解している。けれど、目は皮膚よりもデリケートな臓器で、誤差が数ミリでも負担は激増する。

「忙しくて検査に行けなくて」と患者さんは言う。私はそこで必ず返す。「忙しいほど、を省略しないで」。利便性は素晴らしいが、角膜は交渉に応じない。

酸素の通り道は、見えないが確実に詰まる

コンタクトは角膜に酸素を届ける必要がある。素材のDk/tが低い、着色層が厚い、レンズが乾きやすい。この小さな積み重ねが、夜には鈍い痛みとなる。数字が良さそうに見えても、実際の装用時間や涙ので結果は変わる。

「外したらスッと見えるようになった」と言われることがある。実はそれ、角膜浮腫が引いて視界が澄んだだけ。日々の軽い酸欠が、ある朝まとめてツケを回す。

「合う」ではなく「合わせる」もの

ベースカーブ、直径、エッジ形状。これらはすべて「合わせる」前提の数値だ。店頭のワンサイズが偶然合う人もいるが、合わない人の角膜は摩耗し、上瞼はこすれ、やがて炎症は慢性化する。

私は診察で瞬目のや涙のの切れ方を見て、レンズを微調整する。そこに「人気」も「映え」もない。あるのはあなたの眼の地図だけだ。

着色レンズのもうひとつの壁

着色レンズ自体を敵視しない。問題は、顔料の載せ方と厚み、そして設計の粗さだ。着色層が瞳孔近くまで攻めれば、夜間にハロが滲む。酸素が阻まれ、周辺角膜は静かに悲鳴をあげる。

「写真だと最高なんです」と嬉しそうに見せてくれる人がいる。私は笑顔で返しつつ、夜道との日は外してと伝える。見た目と見え方は、しばしば別の生き物だ。

私が避ける基準

私は次の条件が重なる製品を、臨床の経験から意図的に避ける。

  • Dk/tが相対的に低い旧素材、厚めの着色層、汎用ベースカーブのみ、長時間装用を前提に掲げる、ケア簡略を強調しがち

この組み合わせは、角膜の酸欠・上皮微小損傷・結膜乳頭増殖(GPC)を呼び込みやすい。短期は快適でも、中期で反動が来る。

メーカーより「使い方」のほうが危ない

「水道水で洗った」「ケースを替えてない」「寝落ち常習」。どのメーカーでも、これだけで敗戦確定だ。アメーバや細菌は、疲れている人の隙を突く。「たまたま無事だった」は、安全の証明にならない。

患者さんの言葉を借りれば、「バレなきゃ大丈夫でしょ?」。私は穏やかに否定する。「目は記録しています」。

正しい選び方は、検査室から始まる

最初に必要なのは、流行ではなく基準だ。私ならこう提案する。

  • 眼科で角膜地形・涙液評価→複数素材を試装→実使用の時間帯で再評価→ケア方法の実演→3カ月後の微調整

この工程は面倒に見えるが、最短ルートだ。合わないレンズで回り道するほうが、時間も視力も削る。

それでも店頭で買うなら

どうしても薬局で選ぶなら、せめて次を守ってほしい。短時間装用から開始、就寝前は必ず外す、乾きや違和感が3日続いたら中止。そして「安さ」より、素材の透過性と設計の情報開示を優先する。

「目が慣れるまで我慢します」は禁句だ。慣れるのは痛みであって、角膜ではない。

眼科医としてのささやかな矛盾

白衣を脱げば、私も。おしゃれもしたい。だからこそ、プロとしてを引く。「楽」は安全の上に積むべきだと、毎日確信している。

「無理しないで外してね」。診察室でそう呟くたび、私は未来のあなたの視界を想像する。澄んだ朝の光が、何の違和感もなく目に入る日常。そのために、今日の一枚を選びなおそう。

山本 翔太
山本 翔太
フィットネスと格闘技を愛するスポーツライター。大学でスポーツ科学を専攻し、国内外のアスリート取材を通じて「挑戦する心」をテーマに記事を執筆。APFでは、トレーニングとメンタルの両面からパフォーマンスを掘り下げています。

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